ワンダフルストーリーvol.12 「美味しいサプライズ」

#ワンダフルストーリー

家事代行事例⑫

美味しいサプライズ

初めて米倉様のご自宅にお料理のキャスト・サービスとしてお伺いした際に、ご主人よりご要望として頂いたのは「奥様が喜ぶ料理を作って欲しい」ということでした。

奥様は約1年間の入院生活を経て、ご自宅で療養中と伺っておりました。当然、塩分やカロリーなど厳しい食事制限があるはずですし、お出しできる料理も限られているのでは…と予測しておりました。ですが、ご主人さまは「大した量を食べるわけではないのだから、細かいことを気にするより、美味しいと思って食べられる料理を作ってやって欲しい」と仰いました。

それから毎週2回、ご自宅にお伺いするようになって5カ月が経とうとしておりますが、毎回、いろいろなお料理をお出しする度に「美味しい、嬉しい」と喜んでくださるので、こちらも嬉しくなり、様々なお料理をお作りするようになりました。

一回の訪問で、当日と翌日の分のお料理を約10品ほどお作り致します。 昨日お出ししたのは青椒肉絲、米茄子のそぼろあんかけ、アボカドの海老サラダ、チーズやトマトの生ハム巻き等々。 メインのお料理のほかに、晩酌をされるご主人さまの酒の肴やサラダなど、和洋折衷ながらもバランスよく召し上がって頂くことを心がけております。 また味付けに際しては先に薄味の状態で奥様の分を小分にしてからご主人様の分に味を追加したり、いりこや鰹節や昆布を合わせてしっかりと出汁を取って薄味でもしっかりとうまみを感じられる料理にするなどの工夫をしています。

お二人の好みにそぐわない料理をお出しした事がありました。

伺い始めて間もない頃のことですが、お二人の好みにそぐわない料理をお出しした事がありました。

お豆腐を入れてヘルシーに仕上げたハンバーグだったのですが、ご主人様から「まがい物のハンバーグは食べたくない。僕は君の作る、本格的なハンバーグが食べたいんだ」と。 ご主人様は日頃より美味しいものを沢山召し上がられていて、しかも特にお肉料理が大好物と知りました。奥様にしても、入院中から厳しい食事制限を受けていらっしゃいましたので、ご自宅ではヘルシーさよりおいしさを優先して欲しいと思われたかもしれません。

それからは、食材の好き嫌いはもちろん、料理法や食材の切り方に至るまで、例えばご主人様は刻み葱は常備するほどお好きでも白髪葱はあまりお好きではないなど、細部まで情報を収集し、お二人の好みを最大限尊重した料理をお出しするよう心がけるようになりました。
「うまい!これなら任せてだいじょうぶだね」と仰って頂き、更に「君はどこで料理の修業をしたの?」と尋ねられた時には、認めてくださっていると感じてとても嬉しかったのを覚えています。

何か飾って頂けるものをお作りしよう…
ふとそんな考えが浮かびました。

「毎日、天井ばかり見ていてつまらないわ…..」

一日のほとんどをベッドの上で過ごされていた奥様が、ある時深い溜息を吐かれました。代わり映えのしない風景の中で、何か飾って頂けるものをお作りしよう・・・・・ふとそんな考えが浮かびました。

若い頃より洋裁をしていた関係で、家には何百種類ものボタンが眠っていました。どれもキレイな色や形で捨てるのが惜しく、取っていたものだったのですが、これを使ってクリスマスのタペストリーを作ることにしました。赤いフェルト生地の上に緑のフェルト生地をもみの木の形に切って貼り付け、さながらクリスマスツリーのオーナメントのように、色とりどりのボタンを散りばめました。それぞれ別の個性を持ったボタンたちが、森のもみの木の上で賑やかにおしゃべりしているようでした。

「奥様、クリスマスプレゼントです」
「まぁ、なんて可愛いのかしら!」

差し出したタペストリーを見て、奥様はとても驚き、喜んでくださいました。これを眺めていると元気が湧いてくるみたい、とも仰って頂けました。奥様から「元気になれるようだわ」というお言葉を聞けたことが本当に嬉しく、サプライズを計画して本当に良かったとこちらまで幸せな気持ちになりました。

奥様は私が伺うとベッドから起きて来られ、料理をしている私に話しかけて下さるようになりました。

また、ちょっとしたサプライズは日々のメニューの中でも実践しています。奥様の好物のひとつにじゃがいもがあるのですが、ある日、カロリーの高い鰻の蒲焼を、じゃがいもで模してお作りすることにしました。生のじゃがいもをおろし金ですり、海苔の上に厚めに持ってそれらしく切れ込みを入れ、油で揚げて蒲焼風のタレで味付けをします。 こうすると見た目は鰻の蒲焼にそっくりです。

「うわぁ、今日は鰻なのね」
「いえ、これはじゃがいもなんです」
「嘘でしょう!? 鰻の蒲焼みたいよ」

いろいろ手を加えてたのしませてくれるから食事の時間が待ちどおしくて・・・・と、最近では奥様は私が伺うとベッドから起きて来られ、リビングの椅子に腰掛けて、料理をしている私に話しかけて下さるようになりました。

ある時、使いかけの山芋が冷蔵庫に残っておりましたので、次に伺った際に「今日はちょっと面白いものを作りますね」と申し上げると、奥様は「あら何が出来るのかしら、楽しみね〜」と楽しそうに微笑まれました。山芋をすり下ろして米粉、砂糖、卵の白身と混ぜ合わせ小さな容器に流し入れます。真ん中をくぼませて餡を入れ、湯気の上がった蒸し器で15分ほど蒸し上げると、鹿児島の郷土菓子の『かるかん饅頭』が出来上がります。蒸しあがって冷ました饅頭を、商品名が印字された業務用の包装フィルムで丁寧に包むと、まさに売っているのと同じものが出来上がりました。

「えぇぇ、これを今作ったの?」
「そうです。どうぞ召し上がってみて下さいませ」
「???!!!」

奥様が喜んで下さったのは言うまでもありません。

食を通じて、毎日を楽しく豊かに過ごしていただけるように…

思っても見なかったことが起こると、びっくりして心は躍ります。「次はどんな料理を食べさせてくれるのかしら?」と、次回のサプライズを心待ちにして頂ければ、それだけ「次までにもっと元気にならなくちゃ」という活力にも繋がります。もちろん、その料理を美味しいと召し上がって頂いて、奥様が健康を取り戻して下さるのならば、キャストとしてこれ以上の幸せはありません。

米倉様の御宅の御庭には、とても見事な桜の木があります。実は昨年末にご自宅にお戻りになった時、奥様は「次は桜はもう見れないかも・・・・・」と思ってらしたそうです。けれど寝たきりだった奥様が今ではご家族とお食事に出かけられたり、「今度は外にお花見に行きたい」「夏には孫と一緒に海水浴もついて行きたい」と、気力に溢れた楽しい未来を仰られるようになりました。

食を通じて、毎日を楽しく豊かに過ごしていただけるように、尚一層元気を取り戻していただけるよう、これからも少しでもお役に立てるように尽力して参りたいと思っています。

キャストサービス 塚村 とみ子

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