ワンダフルストーリーvol.8「エプロンで変身」

#ワンダフルストーリー

家事代行事例⑧

エプロンで変身

最初に、田辺様のお宅に伺ったのは、3人で家事作業を行うミニメイドサービスのリーダーとしてでした。その後、プレミアサービスの一人作業で伺うようになり、両方を合わせると約10年間通ったことになります。一昨年、義父に介護が必要となり、田辺様のお宅へは伺えなくなりました。田辺様宅の家事サービスは他のスタッフに引き継ぎましたが、いつになったら戻れるのか分からず、そのままご連絡もできずにいたのです。
昨年、98歳で義父が亡くなってからは、仕事も前の通りに始めました。その間、田辺様の方では、引き継いだスタッフが辞めることになり、その時に、私が復帰したとお聞きになったようです。毎年1回お客さまから出されるミニメイドの本部宛てアンケートに、「高井さんが戻られたなら、またお願いしたい」と書いてくださったのです。

仕事を超えて心からお役に立ちたいという気持ちになるのです。

このような経緯があって、今年から田辺様のお宅に再び通うことになりました。

1年ぶりでお伺いする日には、カゴに盛ったアレンジメントフラワーにカードを添えてお持ちしました。カードにはこの10年間のお礼と、1年間こちらの都合でお休みしたことのお詫び、これからどうぞよろしくお願いしますとご挨拶を書きました。お花がお好きな田辺様はたいへん喜んでくださいました。ご主人や息子さん、お孫さんのことなどを、1年間のブランクを埋めるようにお話しくださったのです。
「なんだか、あなたの顔を見たら安心しちゃったわ」
作業の邪魔をしてしまったと、田辺様は肩をすくめて、別の部屋に入って行かれました。

田辺様も含めて現在は6件のお客様のお宅に伺っています。どちらも5年から10年と長いお付き合いです。長年、伺っていると、お客様に変わりはないのですが、身内に感じるような何か近しい思いが湧いてきます。お一人暮らしの男性のお客様は、実家の父が生きていれば同じくらいの年と思えます。一人暮らしの女性のお客様は、亡くなった叔母のように感じられます。仕事を超えて心からお役に立ちたいという気持ちになるのです。

この仕事も丸14年になりますが、どうしてこんなに長く続けられたのだろう…

今年の7月でこの仕事も丸14年になりますが、どうしてこんなに長く続けられたのだろうと、この仕事を始めたきっかけを思い起こしてみました。

私は結婚当初から主人の両親と同居でした。「家に主婦は二人要らない。私が働くからあなたは家事をお願いね」と義母から言われ、それ以来、ずっと家事だけをしてきたのです。元気だった義母が76歳で急に亡くなり、専業主婦の私はこの先どうしたらいいかと悩みました。子供もまだ中学生、働いた経験も結婚前の2年だけです。今すぐには働けないけれど、まず働きに出る準備をしよう。「働くには体力がいる」と思い、近所の体育館に通いだしたのです。自転車こぎや、ランニングマシンを使っての体力づくり。結局5年間通い、お蔭さまで今までまったく自信がなかった体力に、自信がもてるようになりました。

その頃、家事サービスという仕事があることを知りました。体育館での運動で、汗をかくことに慣れていたので、汗をかく仕事はいいなと思いました。下の子供も高校生になり、もう大丈夫と、いよいよ働きに出る決心が付いたのです。
折しも家事サービスのスタッフ募集のチラシが入ってきました。そこに掲載されていたミニメイドのお店に行ってみると、面接をしてくださった副店長さんがとても感じの良い方で、お店の雰囲気も家庭的でした。「ここなら働ける!」と、すぐにスタッフとして働くことになりました。

この仕事はとても私に合っていました。天職だと思えました。サービス業が自分に向いているなんて思ってもみなかったのですが、お客様に喜んでいただけるのがすごく嬉しいのです。結婚前にしていた事務の仕事では、おもしろいと感じたことはありませんでした。私は活動的な性格ではないのですが、かといって事務は合わなかったのです。若い時にウエートレスをしたことがあり、すごく楽しかったことを思うと、人と接する仕事が合っていたのですね。

いつもの自分が変われる。変身した私が活躍する時なのです。

家では家族から「お母さんは天然だから〜」と言われてしまうほど、ゆっくりモードの私ですが、仕事となると違うモードに入ります。お掃除の道具類を入れた作業カバンを肩に掛けるとスイッチが入れ換わり、「仕事に行くぞ」というモードになるのです。

新人の時に大混雑の新宿駅で、後ろから押されてそのまま前に倒れ込んだことがありました。作業カバンの上に倒れて、傷一つなく済みました。作業カバンが下敷きとなって、私を守ってくれたのです。その時から、このカバンを持つと気分がアップして、「怖いものがない」と思えるようになりました。

お客様のお宅に着いてからは、作業用の身支度に取りかかります。髪をピンでとめてエプロンを付けます。気分がシャキッと引き締まり、今までの自分とは違う自分になったように感じられるのです。“そうだ、私はエプロンを付けると変身するのね”どうぞお任せくださいという「頼れる私」に変わるのです。それからの2時間半は一切他のことを考えずに、本当に仕事に集中できます。その時間は日常とは違う時間です。いつもの自分が変われる。変身した私が活躍する時なのです。そして、変身した自分を心から楽しんでいる私がいるのです。

この仕事を長く続けられた秘密、それは、きっと“エプロンで変身”にあるのでしょうね。

プレミアサービス 高井 千鶴子

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